アインシュタインより愛を込めて&Apollo Crisis感想【GLOVETY】(5988文字)
今回は『アインシュタインより愛を込めて(以下アイこめ)』と、そのアペンド版ソフトである『アインシュタインより愛を込めてApolloCrisis(以下アイこめAC)』の感想・評価を書いていきます。
アイこめACについては、GLOVETYの公式サイトにて無料でダウンロード出来るので、アイこめ本編をプレイした方はアイこめACもプレイすることを強く推奨します。(というか、殆どの方にとっては本編だけでは分からないことが多すぎると思います。)
途中まではネタバレなしで書いていきます。
*2022/2/13 本編の分を執筆したので公開します。
基本情報
アインシュタインより愛を込めて
発売年:2020
ブランド:GLOVETY
シナリオ:新島夕
絵:きみしま青
アインシュタインより愛を込めて Apollo Crisis
発売年:2021(無料版あり)
ブランド:GLOVETY
シナリオ:新島夕
絵:きみしま青
あらすじ(公式サイトより引用)
人の気持ちが分からない奴だと言われる。
だけど人の気持ちなんて、誰に分かると言うのだろう?
夏のはじまり。
北牧学園2年生。試験で毎回首位の 愛内周太は、はじめてその座を明け渡す。
トップになったのは 「有村ロミ」という、ネットで先鋭的な論文を発表し続ける、
謎の少女だった。
そして、周太はロミにある相談をもちかける。
「愛内周太」「有村ロミ」
2人の天才の出会いをきっかけに、
はるかな夏の冒険が始まる。
評価・感想(ネタバレなし)
評価(S~E)
評価の基準は以下の通りです。
S: 完璧
A: 突出して優れている(名作の基準)
B: 平均的な作品と比べて優れている(良作の基準)
C: 標準的
D: 平均的な作品より少し劣る
E: 平均的な作品よりも決定的に劣る
(*は個人差大きめ)
それでは評価を書いていきます。()内はACまで含めた評価です。
シナリオ:A*-(A+*)
キャラクター:B*
文章:B
絵(立ち絵・背景・CG):S
音楽:A+
(価格に対する)ボリューム:D(C)
演出:C(B)
システム:B
総合評価:A-(A)
シナリオ
シナリオのストーリーの流れ自体は非常に面白く、名作と言えるレベルなのですが、一方でプレイヤーの考察を前提とした作りになっていて、受動的にプレイしていると核心の部分は何も分からないまま気づいたらルートが終わっています。このあたりの説明不足はACまでプレイすればかなり解消されるので、総合的には素晴らしいシナリオだと思います。
また、本作はファンタジー色が強いので、当然作品側からプレイヤーに向けての段階的な情報開示が必要なのですが、情報開示のために個別ルートが使われるタイプの構成になっています。このような構成はビジュアルノベルゲーム全体としてはさほど珍しくないのですが、「自分の好きなヒロインと幸せになりたい」といったタイプの方には合わないかもしれません。(イメージとしてはChaos;childとかに近いかもしれません。)
この作品は何処までも主人公「愛内周太」の物語であり、彼にどこまで感情移入できるかがシナリオの評価を大きく左右すると思うので、*を付けました。実際評価が二分されるタイプの作品だと思います。
本作中盤~ACにかけての展開は非常に素晴らしく、感情的にも構成的にも面白いシナリオであることは間違いないです。
推奨プレイ順は佳純→忍→坂下→ロミです。こうじゃないと意味不明な部分が出てくると思います。
キャラクター
キャラクターですが、まずヒロインは4人とも魅力的に描かれており、主人公にとってどのようなキャラクターなのかが上手く描かれていたと思います。僕は坂下が好きです。
そして、主人公なのですが、新島夕作品の主人公だなあといった感じです。彼の言動や行動はそれなりに問題があり、特に序盤はあまり清涼剤となるようなヒロインもいないまま彼の毎日を見せられるので、「不快感なく美少女ゲームを楽しみたい」という方には不向きかもしれません。一方で、このような主人公は成長物語としては素晴らしいキャラクターであると僕は思っています。
文章
テキストそのものはやや独特*1で、「ノベル」よりも「ゲーム」寄りですが、心情描写などは優れていると感じました。ノベルゲームというのは通常一人称媒体ですが、この作品は通常パート中にヒロインの心の声が描写されたりするので、このあたりは少し面白いなと思いました。
絵
完璧です。きみしま青先生のイラストは素晴らしいですね。
音楽
OP2曲、BGMともに良曲揃いです。『新世界のα』はFULLでさらに化けるタイプの曲なので、是非聴いてみることをおすすめします。『Answer』もかなり好きです。
BGMはACの方が個人的に好きです。
完全に余談ですが、Twitterにて行われていた『2020年ツイベストエロゲソング』という投票にて、『新世界のα』が得票数、点数ともに1位になっていました(『Answer』は12位)。凄いですね。
ユーザーさんの投票で行われた「 #2020年ツイベストエロゲソング 」で、私が歌唱した『新世界のα』が1位に選ばれたと教えていただきました!
— Luna (@Lunachi_song) 2021年1月31日
たくさんの人に愛される曲を歌えてすごく幸せです
作曲の竹下智博さん、作詞の新島夕さん、投票してくださったみなさん、ありがとうございました(ο゚ω゚ο) https://t.co/MiJyNkdHey
評価はOPがS,BGMがAでA+って感じです。
ボリューム
恐らく、今作が賛否両論である最大の理由がこれだと思います。フルプライスのゲームですが、無印のみだと15時間程で全ルート終わりますし、無印だけでは説明不足が目立つので、「もっとボリューム増やせ」って思う方もいると思います。ACが無料なので、そこまで含めると標準的な分量(それでもやや短い)になり、説明不足もある程度解消されると思います。
また、R18シーンについても分量不足で、まじで短いです。僕は美少女ゲームにそういうシーンを求めるタイプではないので、こんなに短いなら無しにして全年齢で良かったのでは?と思いました。
R18シーン自体が正直必要ない美少女ゲームは多く存在しますが、設定などがコンシューマーでは出せないものであったりするなら理解はできます。しかしこれはSF作品ですし(それこそ科学アドベンチャーみたいに)全年齢で良かったんじゃないかなーと思います。
演出
標準的ですが、ACでの戦闘の演出は割と良かったと思います。
システム
概ね問題なく使いやすいです。バックログのジャンプが少し使いにくい以外がUIも分かりやすいです。
感想(ネタバレあり)
ここから先はネタバレを含みます。未プレイの方はブラウザバック推奨です。
共通・個別ルート
共通パート
全体的に物語の始まりとしてすごく好きでした。このパートが終わったあたりでは所謂変わった部活動モノっぽく進行するのかな、と思いましたが、実際にはその展開はロミ√まで待つことになりますね。
佳純√
日常パートは片桐のキャラクターが面白く、テンポがよくて楽しかったなーという印象です。終盤の展開は急というか、この時点では何かが動いてる程度のことしか分からないので、そこらへんで展開に置いて行かれてしまう人もいるとは思います。それでも最後の、周太の台詞で少し救いのあると感じられた√でした。
忍√
忍のキャラクターは個人的にすごく好きというか、愛内周太に合ったキャラクターであると思いました。何というか、この作品においての人と関わり合っていく等身大の幸せを凄く感じられる。魅力的なキャラクターであると思います。最後、何年も待たせていたにも関わらず、「おかえり」と言ってくれるのが忍というキャラクターを象徴していると思いました。佳純と同じく、「彗星病」「彗星機構」とはほぼ関係のないヒロインではあるのですが、この√は意外と明らかになることが多いですね。
メシアの口調が大事だとは思っていませんでした。
唯々菜√
True以外の√では一番好きな√でした。そもそも個人的にビジュアル面で一番好みなヒロインだったのですが、√の後は尚更好きになりました。
所謂「忘れられていくヒロインを、主人公だけが覚えている」構図は近年でも『青ブタ』などで見た構図ではあるのですが、共通ルートでの天使の羽の演出、そして能力の設定がこのルートを一風変わったものにしていると思いました。マイエンジェル坂下かわいい。周太に引き気味なのもかわいい。あとなんかテンションがおかしくなると意外とセンスが普通じゃないのもいいね。
「好きにならないわけ、ないよね」の所、散々弄ってた「普通」という特徴を回収してくるのが非常に見事で綺麗だと感じました。
終わり方も個人的には好きですね。
余談なのですが、CVの桜木ひなさんって他の作品で見たことないんですけど、凄くこのキャラクターに合った演技をしていて良かったと思います。
ロミ√
ロミ√はこの作品で一番部活として行動している時間が多いのもあって楽しいシナリオでした。ロミの、頭いいのに子供っぽくて可愛いキャラクターは個別ルートに入って初めて伝わってきますね。序盤の展開は唯々菜√をなぞる感じなのですが、全てわかった状態で読むと色々考えてしまいますね。
坂下が消えることに対して、「楽しい夢を見られたらいいのかもしれないな」という結論を出すのがこの√の唯々菜√との違いなのだと思いますが、何だかんだ周太もいいやつではありますよね。
あとは謎合宿あたりの話は普通にほのぼのとして面白かったです。不意打ちで再登場する全裸ボクシングで笑ってしまった。
坂下周りの話が一区切りついてからはいよいよ個別ルート感がありますね。
ここでΣが登場し、いよいよ「鯨の鍵」についての情報が出てきますね。誕生日パーティーを企画したところで横槍が入るのはまあ上手くいかないよなーって感じです。
恐竜のペアネックレスの形見感というか不穏な感じがやばかった。坂下がこういう形で復活というか再登場するのは予想外だったし考察の余地がありそう。遺書とペンダント…………
「この島を早く去って」の所ですごく悲しくなった。この子はメシアなんだよなあっていう。
この√自体はあくまでもグランドの前準備なのですが、ロミと周太がお互いをどう見ているかという部分と、お互いがお互いのことを守りたい、幸せにあってほしいと強く願っているという描写が巧みだったと思います。
「事実、俺は、お前に惚れてるしな」の所のCG好きです。
GLAND√
過去編
まずは過去編ですが、周太は歪んだとかとは無関係に昔から愛内周太だったんだなーと思いました(良くも悪くも)。あと、この「神童」特有の全能感というか、世界を性善説に基づいた、希望に満ちた無邪気な目で見ているところが上手く描かれていると思いました(自分が感情移入してしまっただけかもしれない)。
茜と周太の、別に完璧にかみ合ってる訳じゃないのにお互いがお互いを支えてるのいいなと思った。浩太のゲームの誘い断るとこ辛すぎる。
ここで周太は茜の救いになっていた、というのがロミというキャラクターの根底にある気がする。
茜の母と相対したり、父親の死などを通して、愛内周太が「世界は思い通りにならない」ということを痛感していく、世界に対して愛内周太が「閉じる」様子を描いたストーリーでした。
GRAND(ロミ√after)
このルートはまじでやばかったです(語彙力)。というか、メシアとのやり取りよりも後は激アツすぎてぶっ通しでプレイしたのを覚えています。
みんな当たり前のように変なロボットを愛内周太だと認識できるのすごいし熱い。
まずメシア(界狩蛍)とのやり取りですが、「魂」というものに強くフォーカスした本作において完璧な表現だったと思います。「お前は良い奴だ。」というどこまでも普通な説得は、蛍にとってとても響くものであったのでしょう。
そして、「鍵を開けるなんて考えたこともない」という周太のプロローグとの矛盾。これに気付いて小さな違和感を覚えていたら、”愛内周太”の欠落が明らかになって腑に落ちました。鯨を開くつもりの「愛内周太」は、鯨を開くつもりのない、「愛を知った周太」を囮に使い、時間を稼いだというのは非常に面白かったです。
ロミは周太の危うさが分かっていた。だから、「街に明かりを灯す」ということを通して彼に穏やかに過ごしてほしかった。それが彼女の目的だった。
ここの会話だと、「そんな中から、いつか、かけがえのないものができるよ」って台詞がマジで好きです。
この後の、どちらも本体ではないというパートはその通り。
愛内周太は結局悩み続けて、鍵を開けなかったのだから。
そして、メシアは彼を消滅させる。彼女が自分の意志で「救世主になるにゃ」と言う事の意味が、世界を憎まなくなったことが「楽しい夢」の産物であったと考えると感慨深いシーンですね。
有村ロミは、比村茜は、どこまでも周太についていくと言う。周太はこれを拒む。
この作品のメッセージとしての「かけがえのない人」についていきたいロミと、それを拒む周太。
これは「愛を知った」ことの象徴としてのシーンですね。
周太の蘇生(?)というかアインシュタインの中に周太がいたのは何故なのだろうか。
恐らく浩太inアインシュタインと周太の交流。ズルい!ズルいなあ本当に。
そして、周太とロミは互いの思いを伝え合う。ここのCGは本当に最高だった。
郷田が浩太を殺したのはまじでびっくりした。ACまでやった今ならまだしも、ここだけだとあんまり話が見えてこなかった。ただ、その記憶が見えたという時点で、現在のアインシュタインと浩太との間にも何らかの繋がりがあるのかもしれないと思っていた。
そして、最後にして最高のタイトル回収でした。
この作品、「浩太は”アインシュタイン”という偉大な科学者の名前をモーメントに冠し、それは周太に受け継がれた」という構図が予め存在するので、ここでのタイトル回収が熱すぎるうえに綺麗すぎる。細かい疑問とか考察とかが全て吹っ飛ぶ。
そして、エピローグを迎える。
話のオチが素晴らしい。まず、試験の一位の名前はエクスマキナのアナグラム。これに繋がる話がACの主軸になってきます。
そして別離END。新島夕作品は心地よい喪失が多い気がする。「はつゆきさくら」とか……
ロミからの手紙。
もう一人の天才から、もう一つの愛を込めて。
AC(執筆中)
*1:「じゃぁ」とか